お知らせ

2023.03.03

イベントレポート

札幌AI道場 第一期 成果発表会

1. 札幌AI道場について

札幌AIラボでは、札幌におけるAI人材の育成、AI開発企業の集積、地域企業間の協業や地域発のAI開発の促進を目的として、実課題に基づくAI開発の実証(PoC)に向けた課題解決型(PBL)を行うAI人材育成プログラム「札幌AI道場」を2022年8月に開設しました。

札幌AI道場には多数のIT企業から定員を大きく上回る応募をいただき、選考を経て18名の参加者(門下生)を選定しました。門下生は3つのチームに分かれ、道内の企業から提供された実際のビジネス課題やデータを題材として、経験豊富な講師(師範)からの指導のもと、AI開発の一連のプロジェクトを経験しました。

この度、約5か月間のプロジェクトの集大成として、その取組の成果や今後の展望について報告を行う場、成果発表会を開催する運びとなりました。

2. 成果発表会

2023年2月7日(火)17:00~20:00、札幌市中心部にあるIKEUCHI LAB(中央区南1西2)を会場として、成果発表会を開催しました。
会場には、門下生や課題提供企業、師範など関係者のほか、道場に関心を持つ一般の方など100名を超える多数の方々が現地に集まりました。

○開会挨拶

冒頭、札幌市の石川副市長が開催の挨拶を行い、道場の狙い、成果発表や今後の発展への期待について語り、「札幌がAI開発の集積地となるよう皆様の参画をお願い申し上げたい」とお話しがありました。

開催挨拶の後は、各チームの代表者によって、それぞれが取り組んできたプロジェクトの発表が行われました。

○チーム栄愛館
課題提供企業:株式会社テンフードサービス / テ―マ:餃子の不良品検知

チーム栄愛館は、ぎょうざとカレーの「みよしの」を運営する株式会社テンフードサービスが抱える課題の解決に取り組みました。

■演習の概要:

現在、餃子などチルド商品の製造工程で発生する不良品の検査を人手で行っているため、見落としが発生したり、検査業務に従事できる人員が限られるなどの課題が存在している。

課題を解決するため、不良品の検査を自動化するシステムの開発を目指す。

■取組内容、結果:

AIによる物体検知や不良品判定に用いるアルゴリズムの比較検証などを経て、企業から提供された餃子の画像データを対象にしたテストにおいて、不良品判定の誤検知率が0%であるAIの構築に成功。

現時点では、実地検証ができていないため本番環境における精度が不明であったり、撮影からAIの判定までに時間がかかって餃子が流れてくるコンベアの速度に対応できていないなどの課題が残存していることから、本格導入に向けてた今後の改善案についてもあわせて説明がありました。

○チームBb
課題提供企業:株式会社近海食品 / テ―マ:丸とろろの不良品除去

チームBbは、丸とろろの製造など昆布加工食品の製造を手掛ける株式会社近海食品が抱える課題の解決に挑みました。

■演習の概要:

現在、丸とろろの製造工程で発生する不良品の検査を人手で行っているため、不良品の検査及び除去作業を自動化するシステムの開発を目指す。

■取組内容、結果:

企業から提供された画像データをもとに、回転や、拡大・縮小などを行ってAIの学習に用いる教師データを自作。オリジナル画像のみで学習させるパターンや、自作画像も使用して学習させるパターンなど、計6パターンでAI学習の比較検証を行い、最も精度が高いもので9割以上の精度で不良品判定を行うAIの構築に成功。

今回の取組を経て、AIシステムは教師データ次第で学習結果が異なるため、可能な限り実際の運用に近いデータで学習させることが重要であること、また、AI開発は一般的なシステム開発と異なり、「データ作成⇔モデル学習⇔モデル評価」を繰り返す必要があり後戻りが発生しやすいため、機材のスペックや通信環境など、システムの全体像を可能な限り明確にしてから開発に取り組むことが重要であるという学びを得たとのことでした。

また、本格導入に向けて、更なる精度向上や、不良品の除去を自動で行う制御プログラムを開発する必要があるという現状の課題や、システムが開発した場合は丸とろろだけではなく、他の製品にも応用することができるといった今後の展望についても語られました。

○チームNiCe
課題提供企業:株式会社北翔 / テ―マ:商品サイズの自動測定

チームNiCeは、車パーツの販売等を手掛ける式会社北翔が抱える課題の解決に取り組みました。

■演習の概要:

商品の入出荷数が10年前から16倍に増加。梱包する段ボールの大きさが適切でない、入荷処理の過程で商品番号の確認ミスが発生するなどの課題が存在。

入荷処理の作業を省力化するための最初のステップとして、入庫時の撮影画像から、商品サイズ(縦×横×高さ)を自動測定するシステムの開発を目指す。

■取組内容、結果:

様々な角度から撮影された商品画像の中から判定に使用しやすい画像(真上や真横から撮影されている画像)を抽出し、ノイズ除去や測定点の抽出など必要な前処理を行ったうえで、大きさの測定結果を出力するAIシステムを開発。実測値と比較して数cm程度の誤差で測定可能なシステムを開発することができた。

誤差発生の主な原因として、①撮影画像を抽出する際に、真上や真横から撮影されたものではなく、角度がついた画像が抽出されているケースがある、②画像を処理する段階で、商品を載せている台など背景が消しきれていないなどが考えられるため、本格実装に向けた精度向上のためには、それらの解決に取り組みたいとのこと。

また、現状は箱詰めされている商品(直方体)を前提としたシステムとなっているため、箱詰めされていない商品にも対応できるようなシステムにすること、そして計測したサイズを用いて、出荷時の箱詰め作業までを自動化するシステムを開発することなど、企業からの要望を受けた今後の展望についても語られました。

各チームの発表後には課題提供企業からもコメントをいただき、「AIがここまで出来るのであれば今回の事例以外にも札幌・北海道の様々な工場などで最後の検品をAIに任せられるのではないか」「日本全国で人手不足が深刻化する中、エッセンシャルワークといわれるような職種でAIを活用し、省力化していくことはこれからの課題。今回の成果を生かしながら、社員もより良く働ける職場づくりを目指したい」といった、更なる発展の可能性を感じさせるコメントを頂戴しました。

○クロストーク「札幌における企業連携の新たな形」

3チームによる発表の後は、道場最高師範の川村 秀憲氏(札幌AIラボ ラボ長 / 北海道大学大学院情報科学研究院 教授)、道場総師範の中村 拓哉氏(札幌AIラボ 事務局長 / 株式会社調和技研 代表取締役)、岡田 隆太朗氏(日本ディープラーニング協会 理事 兼 事務局長)の3名に登壇いただき、「札幌における企業連携の新たな形」と題して、札幌AI道場の意義や今後への期待などについてお話しいただきました。

―実用化の一歩手前
今期の取組の成果について、「企業側も工場見学も受け入れ、データを提供に協力してくれたことも素晴らしく、門下生も未経験から短期間でこれだけの成果が出ているのは凄い」(岡田氏)、「いくつかの事例は本当に工場で実用化する一歩手前まで仕上がっていて、本当に驚き」(川村最高師範)、「座学ではなかなかできない工場への実用化の提案まで出来ていたところが素晴らしく、期待以上だった」(中村総師範)という評価をいただきました。

―企業がAI導入に取り組もうというマインドに
地域企業の課題をAI活用により解決する道場の取組に関しても、岡田氏から「AIの産業実装には大事なのは人材育成と活用事例の創出・発信。AI道場ではそれらがセットになっている。」とのコメントをいただき、川村最高師範から「1次産業や観光など様々な業態で人手不足が喫緊の課題。今回の成果を発信することで様々な企業がAI導入やDXに取り組もうというマインドになってくることが大事。札幌市の取組の中で、教える・やってみる・データを提供するという仕組みができたことは大きい。」と意義を語っていただきました。

―産学官連携による日本初のモデル
産学官が一体となった地域のエコシステムにも触れ、全国各地の事例を知る岡田氏から「JDLAの正会員企業と行政が一体となった日本で初めてのモデル。今回得られた課題が発表会でもシェアされたことで、とんでもない知見がこのサッポロバレーに蓄積された」と評価いただき、二人の師範からは「今回上手くいった背景には、そこそこの規模の地方都市でありながらプレイヤーの顔が見えてネットワーク化されている札幌ならではの土地柄もある」(川村最高師範)、「教える側も地域の専門学校や企業から協力を頂き、行政のバックアップも有難かった。願わくば、今回参加した門下生にゆくゆくは教える側になってもらいたい。」(中村総師範)と応えました。

―地域の課題を地元のエンジニアが解決する「地産地消モデル」

今後の展開について、中村総師範は「これをきっかけに地域の人材が実際の課題を解決する、そこでビジネスとしてお金も循環する仕組みができることが理想」と抱負を語り、川村最高師範は「汎用的なAIでは解決できない課題が地域には沢山あり、個別の課題に向き合ってエンジニアがAIを提供するサイクルを回しながら1次産業や製造業をはじめとする地域産業を高めていくことが地域ならではの戦い方になる。このAI道場を全国各地の先進モデルになるような最先端のコミュニティにしていきたい」と期待の言葉を、岡田氏から「地域の課題の特定と解決できる人材の育成を高度にバランス良く進めているのが札幌の強み。もっと盛り上げて、取組事例を発信して、全国に波及させてもらいたい」と応援の言葉をいただきました。

○閉会挨拶、総評

成果発表会の締めとして、再び川村最高師範に登壇いただき、プログラム全体を通じた総評をいただきました。
―初めての取組でここまでの成果が出たのは感動した
―AIは常に新しい技術が出てきているので、大切なことは札幌AI道場の中で、次々に新しい門下生や師範が出てきて、新しい技もどんどんアップデートしていく。そうやって道場としてサステナブルになっていくことが、札幌・北海道の地域全体の活性化の原動力になるのではないか、そういった可能性がこの半年で見えたのではないかと思う
―門下生の皆さんには、是非、今回をきっかけとして、楽しんでAIを学んで黒帯になれるように進んでもらいたい。

○交流会

成果発表会が終わり、19時からは同会場にて交流会を開催しました。参加者同士の親交を深め、今後のビジネスにつながる場になったのではないかと思います。

○今後の取組について

今回の成果発表を受け、札幌AIラボでは、令和5年度に開催する札幌AI道場(第2期)に向けた準備を進めて参ります。
門下生や実証課題の公募情報などについては、詳細が決まり次第、改めて当ホームページ等で告知させていただきます。札幌市におけるAI人材の育成やAI開発の促進などを目指し、引き続きご協力をお願いします。

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